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自分の専門であるインターネットの計測と解析という研究分野を、専門外の人に説明するのは非常に難しい。 本書は、自分の研究に最も近い一般書籍、というか、僕の研究分野を一般のひとにも分かるように説明しようとしてくれている書籍だ。その意味でこの本がどう評価されるかは、自分の研究が一般に理解されるかどうかと直結している。

筆者はふたりとも僕の良く知る人物で、この本はゲラの段階で読ませてもらった。 まえがきによると、本書は「壊れた事例から垣間見えるインターネットの形」をテーマに、「インターネットそのものを観察する方法を伝える」という試みでもある。一般には知る機会がほとんどないインターネット運用の舞台裏を、インターネット屋の視点から、具体的な事件や障害事例を挙げて説明しようとしている。

筆者は一般向けの読み物を目指したようだが、内容はかなりマニアックであり、実際、詳細までよく調べられていて、僕自身のレファレンスとしても貴重な資料である。 筆者によると、できるだけ事実を正確に伝えて、その解釈は読者に委ねるというスタンスで書いたとのことだが、一般の読者には少し敷居が高いだろう。 正直、ネットワークの専門家でもこれらのトピックを正確に説明できるひとは多くはいない。この本を面白いと思う読者層はインターネット関係の技術者に限られるだろう。一方で、それ以外のひとが、このようなトピックに技術的には分からない部分があるにせよどれぐらい興味を持つか、という事も非常に興味深い。

とにかく、この本が出版されたことは、僕にとって非常に喜ばしい出来事である。

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ここ数年、WIDEプロジェクトの次の10年を議論してきたが、今回、代表が村井先生から江崎先生に交代し、村井先生はファウンダーになった。

http://www.wide.ad.jp/news/press/20100319-NewDirector-j.html

IETFジャーナルの1月号で、昨年11月の広島IETFの時に行ったトラフィックのパネルがレポートされている。 自分はパネリストとして、日本のブロードバンドトラフィックの傾向について話をしたのだが、写真入りで記事になっている。(9-10ページあたり)

今回は他にもいろいろ日本のIETF関係者が登場しているので、ぜひ読んでみてください。

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インターネット新世代
村井純
岩波新書 1227

村井先生の新しい本がようやく出版された。自分は2年ぐらい前に構想段階の原稿を見せてもらったことがあるが、その時点では思いついたままにいろいろな話題が羅列されていて、どうまとめるのだろうという感じだった。

本書はインターネットをとりまく技術や制度や社会の話を広く扱い、それらが今後ディジタル情報基盤としてのインターネットとどう関係してくるかを解説する。 全体を通して、情報のディジタル化によって起こっている社会変化と、その基盤技術であるインターネットの課題を俯瞰する内容になっている。いっぽうで、一般向けの書物としては話題が多岐にわたるうえに、それらの背景説明が十分でない部分があるので、それなりの知識がないと理解は難しいかもしれない。
また、インターネットのコア技術やいわゆる次世代ネットワークの技術解説を期待していたひとには消化不良となるかもしれない。

とはいえ、インターネット技術の関係者として、村井先生ならではの考えが、このように書物になり読めるようになったことは喜ばしいかぎりである。

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Patterns in Network Architecture
A Return to Fundamentals
John Day
Prentice Hall 2007

階層化、名前とアドレシングなど、過去のネットワークやプロトコルデザインに関する議論を振りかえりながら、問題の本質を考えようとする試み。 正しい抽象化として、リカーシブな階層化と、各層に閉じたアドレシングやフローコントロールのモデルを提案し、このモデルをベースにすればマルチホーミング、モビリティ、マルチキャストなどもより簡潔になるとしている。

ひさびさに読んで勉強になったと思った技術本である。
ここまで一貫して抽象化の重要性にこだわって書かれたネットワーク本は他にないだろう。
OSバックグラウンドの自分には、なるほどと納得ができる部分が多い。

一方で、抽象論で終わっていて、具体的なシステムの提案がないので、読後に消化不良を感じる。 また、思想論や現状のネットワーク研究やIETFへの批判があちこちに出てきて、決して読みやすい本ではない。

このモデルをベースに設計された実動するシステムが出てくるのが楽しみだ。

IIJの技術レポート"Internet Infrastructure Review"のvol. 4(2009年8月号)にブロードバンドトラフィック解析の記事を書いた。
CoNEXT2008で発表した論文の内容の一部に、今年のデータを加えて、日本語で分かりやすく書いたつもりだ。

一般的なブロードバンド利用者のトラフィック量は4年で3.6倍に上昇(本文より抜粋)


  • ブロードバンド利用者全体の1日の利用量を、2005年2月と、2009年5月のデータで比較すると、アップロード(IN)の平均は430MBから556MBと約1.3倍に、ダウンロード(OUT)の平均は447MBから971MBと約2.2倍に上昇

  • ダウンロード(OUT)の詳細を分析すると、P2Pファイル共有等を利用するヘビーユーザの通信量は2GB前後で大きな変化は無いものの、一般の利用者の通信量が32MBから114MBと約3.6倍に大きく上昇

  • 一般の利用者によるリッチコンテンツの活発な利用等による、トラフィックへの影響がうかがえる

IIR vol.4 August 2009 プレスリリース

記事のPDFファイル

インターネット屋のカルチャーは、あまり外部のひとには理解されていない。その原因のひとつは技術者が書いた日本語の文章が少ないことだろう。
そこで、ディジタル技術の進化にとって多様性が大事であるという事を文章にしてみた。 内容はとくに新しい訳ではなく、エンドツーエンドの原則やネット中立性などで議論されてきたことであるが、自分なりの切り口でまとめてみた。
http://www.iijlab.net/~kjc/papers/digital-evolv.pdf

さわりの部分は以下のようになっている。


ディジタル技術進化論

ディジタル技術の進歩するスピードは、他の技術とは比べものにならない。この革新スピードをもたらしているのは、汎用コンピュータであるPC と汎用ネットワークであるインターネットだと言える。つまり、新しいアプリケーションがどんどん生み出され、世界中に広まる仕組みこそが、技術革新の根源になっていて、それは生物の進化の仕組みに似ている。

ダーウィンの進化論では、生物は環境に対して生存に有利な形質を持つものが多くの子孫を残し、その繰返しのなかで環境に適応して進化すると説明される。いっぽうで、過度に環境適応すると、急激な環境変動には対応できなくなり、やがて絶滅してしまう。

ディジタル技術においても、多様なアプリケーションが生まれ、それぞれがより効率的に、また使いやすく世代交代して行き、多様なものの中からより良いものが生き残ることが繰り返されて技術が進化する。とくに、ディジタル技術では、それを取り巻く環境の変化が速いので、技術の交代も速い。個別の技術が進化すると同時に、環境変化によって主流となる技術が交代していくダイナミクスこそが、ディジタル技術革新のスピードを生み出している。

これまでにも、PC とインターネットの普及に伴いweb が生まれ、ダイヤルアップ接続利用が広がり、それがブロードバンドと常時接続に進んで、ソーシャルネットワークやP2P 技術が誕生した。今後も環境変動に応じて新しいアプリケーションが生まれ、相乗効果で技術が進化していくのは間違いないだろう。

ここで重要なのは、生物進化とのアナロジーで言うと、個別の技術は種のレベルの進化であり最適化であるが、環境変化に伴う技術の変遷は生態系レベルの進化であり、種つまり技術の多様性によって支えられる。 多様な技術が存在すれば、その中から新しい環境に適合するものが現れる可能性が高くなる。PC やインターネットが基盤技術と言えるのは、多様な生態系を維持する役割を担っているからである。


続きは以下に。
http://www.iijlab.net/~kjc/papers/digital-evolv.pdf

先週金曜にJPNAPユーザ会に参加。ネットレイティングスの萩原さんの話が興味深かった。
リッチコンテンツの普及で、ページビュー数は減少に転じているらしい。 ウェブ利用時間は伸びていて、1ページビューあたりの滞在時間が増えている。今までネット広告はPV数だけを指標にしてきたが、見直しを迫られているとのことである。
(USのNielsen/NetRatingsではPVから滞在時間へ指標を変える試みにも取り組んでいるようだが、単なる滞在時間では利用者が本当に見ているか分からない等の課題も多いとのこと。)

内容はすでに昨年5月に発表されている。
http://www.netratings.co.jp/New_news/News05232008.htm

voice of san diegoがcaidaの記事を書いている。 
kcとdimaの写真入り。
nature physicsにトポロジの論文が掲載されて以降、いろいろメディアに取り上げられているようだ。

http://www.voiceofsandiego.org/articles/2009/01/14/science/974internet011309.txt

SIGCOMM2009 TPC

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SIGCOMM2009のTPCを引き受けた。来年は以下のようなメンバーとなる。
http://confereces.sigcomm.org/sigcomm/2009/organization.php

2005年にやった時は、少数TPCでレビューをする試みがなされ、ひとりで40本ぐらいレビューすることになった。 2ヶ月ぐらいひたすらレビューに追われて大変だった。
今回は人数も多いが、それでも30本ぐらいレビューすることになりそうだ。2月、3月はレビュー漬けの日々をおくることになる。

論文レビューは、ボランティア仕事でぜんぜん割には合わないが、研究者にとっていろいろ新しい知識を得られるいい機会だ。締め切りに追われてレビューしている時は本当に苦しいこともあるが、よいコンファレンスだと頼まれるとまた引き受けてしまう。

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